His Lover Is(後日談)




 ミミに嫉妬するという行為は、ひどく非生産的で空しい行為だと思う。ミミには感情がない。だからミミには秀島氏を捕らえようなんてつもりはまったくない。ミミはただ、そこにあるだけだ。感情だなんてあやふやなものを持たないミミは、代わりに秀島氏の心の中にもただ存在する。変わらず、ずっと。
 秀島氏の「元彼女」はきっとその空しさに耐えられなかったのだろう。気持ちは分かる。向こうに競う気などまるでないのに、こちらが揺さぶられるなんてひどい話だ。
 秀島氏の家に遊びに来て、ソファでゲームをしていたはずなのにいつの間にか下着姿で二の腕に彼の唇を押しつけられている。私の肌に鳥肌が立っていることに気付いた彼が毛布を持って来て、体に掛けてくれた。彼はその毛布の中に頭を突っ込むようにして私の体中に唇を滑らせる。
 秀島氏に欲望を向けられることは嬉しい。偏執的な優しさも嬉しい。けれどその悦びはどこか後ろ暗い。行き着くところのない悦びだと思う。肩から下着のストラップをはずし、胸の膨らみに沿って舌を這わせ始めた彼の頭を、思わず抱え込んだ。ミミにはできまい、と考えてしまう自分が悲しい。
 毛布と私の肌の間からひょっこりと頭を出した秀島氏は、床に膝立ちをして目を合わせてきた。
「真咲ちゃん、穢してゴメン」
 秀島氏が現実の中でミミを穢すことはできない。でも、そこはまったく羨ましくない、当然ながら。
「私は人間ですから、元々穢れてます」
「いいや、真咲ちゃんは僕が触れない限り綺麗だよ。たとえどんなに普段ぼんやりしてても料理が下手でもね」
「後半がすごく余計なんですけど」
 私がそうやって言い返す時、秀島氏は楽しそうにくつくつと小さく笑う。ミミには永遠に勝てない。でも永遠に、負けることもない。だけど、できれば一度くらい、彼には勝ってみたい。



(Fin)





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