反抗同盟(2)




 一緒にホットドッグを食して以来、由利は皆瀬を見かける度に声をかけるようになった。毎日友人と待ち合わせて昼食を摂るという習慣のない皆瀬は良く学食で由利に捕まった。
「皆瀬さん皆瀬さん、目黒にはいつ一緒に行ってくれる?」
 そう言いながら由利はハヤシライスを頬張る皆瀬の隣に腰をおろした。皆瀬の友人は皆『類は友を呼ぶ』という言葉通り甘いものを集団で食べるタイプの女性ではないため、そんな誘いは由利からしかかからない。
「由利って女性より女性っぽいよね、たまに」
「まあ中性的な性格になるのはやむをえないと思ってよ」
「ていうか何故私に声をかける」
「群れない女性って少数派じゃん。その点皆瀬さんは一人で居ることが多いから話しかけやすいよね」
「友達が少なくてごめんなさいね」
「そんなことは遠回しにしか言ってないけど」
「結論はそこかよ。否定しろよ」
「僕が友達になってあげよう」
「イエ、特に困ってません」
「お墓の勧誘じゃないんだからさ」
 そこで学食のガラス越し通り過ぎてゆく男子学生に視線を止めた皆瀬がしばらくしてふと横を向くと、由利の視線もそちらに向いていた。
「田島先輩、知り合いなの?」
 スプーンで田島の背中の方向を指すと由利は頷いた。
「そう言えば田島先輩バスケサークルにも所属してるんだっけか」
 皆瀬がバスケットボールのサークルに入っていることは由利に話してあった。そして皆瀬は由利の所属している研究会の名前も知っていた。
「もしかして、田島先輩…」
「廃線研究会の一員だよ」
「いやあああ、一生聞きたくない情報だった」
「廃線にはロマンが有るんだよ!」
「それもう三回聞いた」
 廃線研究会とは、雑草の生い茂る線路や駅の跡地を写真に撮り歴史を調べまとめあげるというサークル活動である、という情報は由利から嫌というほど聞かされていた。正直に言って皆瀬にはあまり理解ができない活動であり田島が所属しているというほうが信じがたかった。すると由利は遠くに視線を固定したままぽつりとつぶやいた。
「週に一回しか先輩に会えないのは残念だけどさ」
 皆瀬はしばらく黙ったままでハヤシライスを平らげ、最後にグラスの水を飲み干した。
「ね、あのさ、由利ってさ…」
「田島先輩超タイプ。はっきり言えば好きだね」
 皆瀬は頭に手を当てて天井を仰いだ。
「それも一生聞きたくない情報だったわ」
「うん、ていうか薄々気付いていたけど、皆瀬さんと僕って男性のタイプかぶるよね」
「心底男の言うセリフじゃないと思うわ」
「もう諦めた方がいいよ、恋敵」
「勝手にライバル視しないでください」
「で、目黒はいつ行くんだっけ?」
「恋敵と一緒に行くの?」
「なんだ、認めてるんじゃん」
「私は認めてないっつの」
「いやー友達と好みのタイプの話とかするの憧れだったんだよねーだって僕男とは誰とも好みかぶらなかったからさ今まで」
 やけに嬉しそうな由利の表情を目の前に皆瀬はどっと疲れが肩にのしかかってきたような気がした。珍しく甘いものを一口二口程度ならば食したいと思った。
「もういいわ、目黒に行ってあげる。今週の土曜、語学の授業の後でいい?」
「おお、皆瀬さんって意外と押しに弱いなあ」
「アンタに見破られたくなかったわ」
 こうして会話をしていると、周囲からは付き合っている男女に見られてしまうことがあるのに、実情はまったく違うという事実を皆瀬は少し面白いと思っていた。由利と会話をすることが楽しいとは、この時はまだ認めたくなかった。
 土曜日由利に連れられて行った美術館と併設のカフェは、少量かつ高品質…つまりは美味しいものをちょっとだけ、という皆瀬でも納得のいくスイーツを出す店だった。ここのあんみつは最高なんだよ、とスプーンを嬉々として動かす由利を皆瀬は『やっかいながらもやや好ましい友人』と位置づけた。








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